秘密の花園~光の再生
★はじめに
昔から私のHPを読んでくださっていらっしゃる方は前に「秘密の花園」について少し書いていたことを覚えていらっしゃるかもしれません。
「内界の庭」をとおして魂の成長を見守り、支えていく仕事を今は選択しているわけですが、その根本にはこの物語があります。
実はバーネットの「秘密の花園」の中にある忘れな草のエピソードについて書こうかなと思い、ネットでさらに調べていたらこのような本が出ていたことに気づいたんですね。
そして梨木さんの解説とあらたにもう一度この原作を読むことで、この物語の深い意味について考えさせられました。
★忘れな草のエピソード
この物語にはたくさんのお花の名前が出てきます。
たいていはイギリス人が好きな花、イギリスの庭によく植えられている花が多いのですが、忘れな草はよくイギリス人に好まれているようです。しかし、この花は本来山で自生している花、高い山のないイギリスでこの花が好まれるようになったのはやはり「忘れな草」という名前と花の姿からなのではないでしょうか。
先日、渋谷でおこなわれていた「愛のヴィクトリアンジュエリー展」へ行ってきたのですが、エリザベス女王が身につけていた豪華なジュエリー(ヴィクトリア朝時代のイギリス)の中にけっこう忘れな草のモチーフが多いのです。
青い部分はターコイズを使用しています。
指輪は特に二人のきずなを忘れないためという意味でしょう。
夫婦の結びつき、人とのつながりという点で使用されていたモチーフとして、人気があったようです。
そうした背景と「秘密の花園」に出てくる忘れな草は関係するとは思います。
そのエピソードはこの物語のクライマックスに出てきます。
主人公のメアリが預けられた家の叔父さん、つまりコリンのお父さんは10年前に死んだ自分の妻のことが忘れられず、10年たっても心を閉ざしたままでした。
悲しみを抱えたまま、彼は何度も旅に出ます。
あるときチロル地方を歩いていました。
そこであの花と出会うのです。
以下 土屋京子さん訳の「秘密の花園」から
『小川のほとりに腰を下ろし、陽光にきらめく流れを眺めていたクレイヴン氏は、生えている植物に目をとめた。青いワスレナグサが群生し、清流のしぶきを浴びて葉を濡らしている。その花を眺めているうちに、クレイヴン氏は何年か前にもこんな花を眺めたことを思い出した。
そして、なんて美しい花だろう、この何百という青い小さな花はなんと驚くべき自然の御業だろう、と考えて、穏やかな気持ちになった。そんな他愛もない考えが徐々に心に忍び込み、しだいに大きく育ってほかの考えをそっと脇へ押しやろうとしていることに、クレイヴン氏はまだ気づいていなかった。それはあたかも、よどんだ水たまりの中に清らかな泉がわきいでて、それがしだいに大きくなり、やがてついに黒く汚れた水を押しのけていこうとしているような変化だった。』
この前後の文章も読んでほしいのですが、ここだけ読んでも
すでにフラワーエッセンスを知っている人なら、あきらかにこれは花の共振作用によるプロセスだ!ということに気づかれるかと思います。
そしてこの後クレイヴン氏はこんなことを言います。
『「これは何だろう?」クレイヴン氏はほとんどささやくような声でつぶやき、手で額をなでた。「何か、まるで、自分が生きて・・・いるような気がする!」』
そしてその後彼はなぜかいろんな変化を感じ取り、夢をみるのです。
それは自分の妻が自分に向かって呼びかけている。そしてしかも「花園にいるわ!」と言っている。
そのとき彼は秘密の花園でおこっているミラクルな出来事を知りませんが、同時におこっている癒しのプロセスの中に入っているのです。
このエピソードのすごいところは表現のリアリティです。
花を見て、一気に何かが変わったというのではなく、その体験をした後のクレイヴン氏はまた憂鬱な気分に戻ります。しかし、一日にうち少しだけあのときのような安定感が戻り、少しずつ軽い感覚を持つ時間が長くなっていきます。
この少しずつ、というところが、実に現実的です。
そしてこんなふうにも書かれています。
『自分に降りかかった出来事は自分が受け止めていたのとは少しちがうのではないかと思えてくるような、何かが変化したような感覚だった。』
これも共感できます。
事実は変わらないけど、内面が変化していくと受け止め方が変わるのです。
このエピソードを読むともしかして、バーネットはフラワーエッセンスを知っているの??と思われるかもしれませんが、彼女が「秘密の花園」を執筆始めたのは1898年あたりから。まだエドワード・バックは子供の頃でフラワーエッセンスを作ってはいません。
しかしノヴァーリスの「青い花」など小説の中などで花に対しての感受性豊かな表現がよくあるように作家や音楽家などにとって、すでに野生の花からフラワーエッセンスと同じようなものを受け取っていたと思われます。
それでもこのクレイヴン氏におこった変化の描写はフラワーエッセンスの作用そのもので驚きます。
★光によって、内なる光を輝かせる
この物語にディコンという少年が出てきます。
私はずっとこの少年はこの物語の中の「癒し手」のような存在だと思っていました。しかし、梨木さんの解説を読んでほほう!と思ったのは
このディコンとディコンの姉マーサ、そして二人の母スーザンの家族らを【光の一族】と呼び、ディコンを【光の使徒】と呼んでいたことです。
梨木さんも書いてますが、この物語にとっては「秘密」ということが非常に重要です。で、もちろんそれは癒しのプロセスにとっても重要なのです。心理療法の中で守秘義務というものがなければ、クライアントは安心して心を開くことは出来ません。
驚くことにメアリは初めて会ったばかりのディコンに自分の秘密を打ち明け、しかもその大切な庭に招き入れるのです。
すでに何度も会っているマーサよりも先に。
その後従兄弟のコリンに会いますが、彼に対しても安心できると思うまで、花園のことは打ち明けないようにしています。
ディコンはメアリにとってはすでにあこがれの存在にもなっており、実際会ってみてやはりそうだと思わせる登場シーンですから、会ったばかりにもかかわらず、自分の秘密を打ち明け、感情をあらわにしてしまったりもします。
その後にマーサにディコンは美しい人だと言い、ディコンについてベタほめします。すっかり転移感情があるようです。
ディコンは植物や動物のことをよく知り、通じ合っていて、自然界とメアリを橋渡しする役割も持っています。
つまりはフラワーエッセンスプラクティショナーと同じようなものではないでしょうか。
そうした光の存在たちによって、メアリやコリンはどんどん変化していきます。
後半には「魔法」の話がよく出てきます。
死んだように見えた植物たちが次々と生命力を取り戻していくのを見て、彼らはあの庭には魔法がかかっていると思います。
そしてコリンはこんなことを言います。
『魔法の第一歩は、「きっといいことがおこる。」と口に出して言って見ることだと思うんだ。実際にそういうことが起こるまで。』
『魔法はぼくの中にある!魔法はぼくを強くする!魔法の力を感じてる!』と何度も口にします。
これって・・アファーメーションですよね。
このアファーメーションの力は強力で彼らの内なる光を輝かせ、どんどんミラクルへと導きます。
ずいぶん前に『秘密の花園』を読んだときにはフラワーエッセンスのことをまだ知らないときだったので何も思わなかったですが、今こうして読み返してみるとフラワーエッセンス療法のプロセスに通じるものがたくさんあり、ぜひ再読をお勧めします。
もちろん梨木さんの解説もいっしょに読むとさらに深い解釈が出来ます。
梨木さんは『本を読む、という作業は、受け身のようでいて、実は非常に創造的な、個性的なものだと思います。 略 すでに自分に与えられている「動かし難い」ものを、どう読み込み、解釈し、自分の心象風景にフィードバックさせていくか、というところまで。』と書いています。
物語を読むことによって動かされる力とこの物語のある花や植物によって癒されることを知る力が働いているように思います。
ですからこの話を読むとムーアってどんなところ?とかヒースやエニシダであふれるところや実際に花園を見たいと思う気持ちが働きます。
その場合次なるステップがあります。
★実際に「秘密の花園」を読んだあとその世界に触れる。
イギリスの風景の写真集やYoutubeでもイギリスの庭やムーアの風景を出来るだけ見てみましょう。
私は手元にヨークシャーのムーアにヒースが一面咲いている写真がある本を持っています。なかなか日本にはない風景です。
本当は実際にそこに行ければ文句はないのですが(笑
この本に出てきた花に会って見ましょう。
ディコンが買ってきた種はモクセソウや白いポピーとかでしたね。
初めてコリンが秘密の庭に入ったときはスモモの木が天蓋になっていて、桜やりんごの花が咲いていました。
オダマキや水仙、メアリがキスしたクロッカス、作者バーネットも愛したバラなど。
イングリッシュガーデンは最近日本でも見られるようになりましたので、そういうところへ出かけるのもよいでしょう。
それから「秘密の花園」の映像版もお勧め。
私は1987年に製作されたテレビ用の「秘密の花園」がNHKで放映されたときに録画して何回みたかしれませんが、このキャストがお気に入りすぎて、後から出来たアニエスカ・ホーランド監督の「秘密の花園」の印象が薄いです。
テレビ版のは調べたらアラン・グリント監督。
ディコン役を「ネバーエンディングストーリー」の主人公をやった少年がやっていて、大人になったコリン役をコリン・ファースが演じています。私はコリン・ファースのファンなので何回も見たというのもあります(笑)
2020年イギリス公開の映画「秘密の花園」は2021年現在日本未公開ですが
こちらもコリン・ファースが出ていて非常に気になってます。
★「秘密の花園」日本での訳本
本は以前から私が持っていたのは岩波少年文庫ですが、梨木さんが解説しているのも岩波少年文庫なのに訳者が違います。途中で新訳になったようです。
その後さらに光文社から新訳が出ています。こちらもお勧め。
やはり訳が違うと登場人物の性格まで微妙に違う感じがしますね。
こちらも後から購入しました。酒井駒子さんの挿画が素敵です。
こちらの本は持ってないですが、こちらの挿絵も素敵です。
★作者について
最後に少しだけ作者のフランシス・ホジソン・バーネットについて。
彼女はずっと庭つきの英国の田舎に住んでいたわけではありません。
アメリカに帰化して晩年はアメリカ、ロングアイランドで過ごしています。しかし、49歳のときにイギリスのケント州の屋敷と庭を手に入れて10年間過ごした経験が「秘密の花園」を生むきっかけとなっています。
つまり庭づくりは49歳からだったんですね。
彼女の庭は今もそこにあるそうです。いつか行ってみたいです。
長くなってしまいましたが、最後まで読んでいただいてありがとうございます。
参考文献
秘密の花園 The Secret Garden 映画パンフレット